遺言
財産があるからもめるのではなく、「分けるべきもの」がないからもめるというケースが多くなっています。「ウチにはそんなに財産はないから」などと思わ
ずに、遺言書を書いておきましょう。
遺言書を書く人が増加
近年、遺言書を書く方が増
えています。公正証書で遺言を残される方が年間8万人を超え、自分で遺言書を書く方も合わせると、その数は実に12
万件以上となり、これは現在の年間死亡者数125万人の約10%を占めている状況です。
以前は、死後のことを生前に考える行為は「縁起でもない」と敬遠されがちでしたが、現在は皆さまの意識も大分変わってきたようです。しかし、遺言を書く方が増えてきたとはいえ、まだまだ抵抗を感じる方も数多くいらっしゃるのが現状です。
遺言を書かない理由
「遺言を書かない」という理由の最も多くは、「ウチにはそんなに財産はないから」ではないでしょうか。しかし、相続財産に不動産がある場合は注意が必要です。
不動産は分割することが難しいので、居住者は他の相続人に権利を主張されてしまうと、その権利分を金銭で支払わなければなりません。多額の預貯金があるなど相続財産がたくさんあれば、預貯金を多めにわたすことで、住んでいる不動産を相続することができます。しかし、相続財産が不動産しかない場合、金銭が用意できなければ、その不動産を売却して相続人全員で分けなければなりません。長年慣れ親しんできた家を、ある日突然手放すことになるかもしれないのです。
このような場合、遺言書を有効に遺すことによって、同居していた家族に不動産を安全に相続させることが可能となります。
遺言書の種類
遺言書には大きく分けて2種類あります。自分で書く「自筆証書遺言」と公正証書で作成する「公正証書遺言」です。
「自筆証書遺言」の場合、「全文自筆」「氏名」「日付」「印鑑」の4点を満たしていれば、すべて「自筆証書遺言」となります。書くときは気軽に作成することができるのですが、その反面、亡くなった後が少々面倒です。まず、亡くなった後はその遺言を裁判所に提出する必要があります。ただ持っていくだけではダメで、さまざまな資料を集めてから提出しなければなりません。その後、裁判所からすべての相続人に、遺言が届けられた旨の通知が送られ、裁判所が定めた期日に、集まった相続人の面前で、裁判官が印鑑を押して(これを「検認」と呼びます)初めて遺言書として使用することができます。また、世界にひとつしかないものなので、紛失・改ざんの危険が常に伴います。
「公正証書遺言」の場合は、まず作る際に、公証人に支払う費用が発生します。また、遺言を作る際、遺産を受け取る権利がない第三者ふたりを「証人」として遺言作成に立ち合わせなければなりません。ただし、亡くなった後の手続きは大変スムーズです。「公正証書遺言」であれば、亡くなった後、裁判所に届け出ることなく、すぐに手続きを進めることができるので、遺族の手間を大幅に減らすことができます。また、「公正証書遺言」の原本は常に公証役場に保存されているため、なくなる心配がありません。
自筆証書遺言 |
遺言者が遺言書の全文、日付、氏名を自書し、押印します。
家庭裁判所の検証が必要です。 |
公正証書遺言 |
2人以上の証人の立ち会いのもとに、公証人が遺言者の口述に基づき遺言書を作成します。
原本は公証役場に保管します。 |
※法的な効力を持つ文書である遺言書は、細かく書式が定められており、これに則ってないと無効になります。最も安全確実なのは、公正証書遺言です。
おすすめは「公正証書遺言」
生前に手間がかからず、亡くなった後面倒な「自筆証書遺言」と、生前に面倒で、亡くなった後に手間のかからない「公正証書遺言」。皆さまの状況にあったほうを選択していただくことになりますが、遺族のために書くという前提から考えると「公正証書遺言」をおすすめします。
昨今は、権利意識の高まりから、財産があるからもめるのではなく、分けるべきものがないからもめることも多くなっています。裁判所の統計でも、平成22年に成立した遺産分割調停事件数7987件のうちの3割強にあたる2469件が遺産額1000万円以下のものです。
遺産相続でもめると二度と親族関係は修復されません。自分が良かれと思って遺した遺産で家族がもめてしまうことほど悲しいことはありません。遺言書は家族をつなぎとめるという意味でも、大変重要なものだということができます。